自由を謳う国の中心で

午前中:ノースカロライナ大学の先生方に見送られてニューヨーク行きの飛行機に乗る。
    素敵な本をいただいた。それ以上に、素敵な精神をいただいたような気がする。


夕方:ニューヨークのホテルにチェックインした後、自由の女神が見えるマンハッタン島南部へ行く。
   フェリー(無料)に乗ったら自由の女神が間近に見えた。そういえば、この国は自由を謳う国だということを思い出した。
  国が国として精神性を強調するというのはめったにないことだと思う。例えば、Aという国はどんな国ですか、と聞かれたら、普通はAという国に固有の文化(言語とか通貨とか家族制度とか)があって、この文化を主体とした集合体をもってAという国が存するわけ。アメリカという国の場合、自由という精神性(価値観)を謳う国として成立した(している)わけで、そのことが大きなエネルギーになっているのだなぁということを感じました。
  具体的な経験としては、マンハッタン島の外と内での建物や人々のもつ気品(というか、誇り?)に大きく違いがあったように思われました。建物もそうですし、タクシーの運転手にしてもイエローキャブ(正規のタクシー)と白タク(タクシーとしての登録をしていないタクシー)の運転手では、話し方も身振りも違っていました。ニューヨークの街は東京や上海やロンドンや盛岡などのどの街よりも、街の風景やその街にいる人の姿の個性(相違点)が場所によって大きくかわりました。東京で言えば、銀座のすぐ隣に八王子市があるような感じ、新宿で地下鉄に乗ろうとしたら秋葉原の雑踏が現れた感じ、と例えると伝わるでしょうか。自由を謳うということは、個人の生き方に個人の責任をもってもらうということになって、勝者に対する賞賛も弱者に対する見方も、その個人の問題であると見る向きがあるような気がしました。それが格差を生み、生活環境の違いを生み、個性の近い者たちが近くに住むというコミュニティの違いになって現れるのかなと思いました。
 イギリスから独立した経緯などを考えると、国として独立する理由を考えるならば、親から子供が独立するときに「もう私は自分の人生を自由に生きたいの!(ホームドラマ風)」というように、個性が確立していない(人種も言語も文化も基本的には固有のものを持っていなかった)段階では、自由に生きたいということを謳うしかなかったのだろうなぁと思いました。 
 そして、文化や人種による個性をもたないという背景が、経済や軍事や能力(スポーツ等)などの面で「一番であるという個性」を持とうとする国民感情につながっているのではないかなぁと想像しました。
 (僕のマイミクさんがガンダムネタを書いていたのでついでに書くと、ガンダムで描く時代である宇宙進出後の世界では、地球人と宇宙進出人の対立が描かれることが多いように思います。これって、新大陸発見前後の世界の人と、新大陸(アメリカ)発見後の人の関係に似ているんじゃないかなぁと思ったりしました。)




 それともう一つ感じたのは、ニューヨークの街中には公園以外に緑がほとんどありません。道路わきに街路樹があるという日本では当たり前の、あの光景があまりないのです。そのことが、ニューヨークが人間が作り出した街であるという印象を強くさせています。また、地下鉄や外国人街(チャイナタウンなどなど)に行くと突然に周囲の人の種類が変わります。例えば秋葉原アキバ系がいるというような些細な違いではなくて、アジアンタウンに行ったらアジアンの人で70%以上を占めているがその他の場所には5%もいない感じであるというような、それくらいの違いでした。
 人間が作り出した街という印象が強いので、生活環境の違う人々の人生が交わる可能性はほとんどないのだろうなぁと思いました。言い換えるならば、他の人の生活や自然の摂理に思いを馳せることができない環境なのではないかなぁと思いました。
 想像力の貧困は、他者との衝突を起こしやすくします。そういった意味で、僕はニューヨークは危険な街だなぁと思いましたし、そんな都市を中心地として有するアメリカという国は、どことなく危険な香りがするなぁと思いました。


夜:グラウンド・ゼロを見る
グラウンド・ゼロは印象に残らざるを得ない場所でした。
何かがあった記憶があるのだけれど、その何かは無くなってしまっている、そんな場所でした。
それって、人の死を振り返るときにも似ているような気がします。
誰かが生きた記憶があるんだけれど、その人という存在(肉体)はなくなっている。
アメリカという国にとっては、ひょっとして初めて「何かを亡くした」経験だったのではないかなと思いました。
アメリカという国のビッグバンが拡大し続けてそれが世界規模にまで拡大するという観念があったのだとしたら。自分が何かをなくす行為で別の個性を思いやるようになる、そんな機会になればいいなと思いました。